コラム

管理組合ですぐに取り組める公正な大規模修繕工事を実施するための手段

談合問題に対して、公正取引委員会が立入検査を行ったことで、疑心暗鬼の管理組合の方々も多く、多数相談が寄せられています。下の相談の一例から、対処方法をご紹介したいと思います。

2回目のマンション大規模修繕工事が控えており、計画中です。前回の大規模修繕工事がA社(談合の立入検査を受けた企業)で行っており、今回もA社に決定しようと修繕委員会が動いています。A社は立入検査を受けており、不安です。また、設計コンサルも前回と同じ。修繕委員会の代表的なメンバーも第1回の大規模修繕からずっと居座っているという状況です。何とか公正な工事を行いたいのですが、一区分所有者としてどんな取り組みが出来ますか?総会はこれから開催されます。

マンションの大規模修繕は、数億円単位の修繕積立金が動く極めて重要なプロジェクトです。ご相談をいただいた区分所有者の方が感じていらっしゃる「前回と同じ業者・コンサル・委員長」という固定化された構図は、透明性を欠き、管理組合の利益(=住民の資産)が損なわれるリスクがある、いわゆる「不適切コンサル問題」や「癒着」の典型的な懸念パターンです。

総会前であれば、まだ軌道修正のチャンスはあります。一区分所有者として、論理的かつ効果的に動くためのステップを整理しました。

公正な大規模修繕の発注に向けて、取り組めること

1. 情報を収集し、外堀を埋める

感情的に「不安だ」と訴えるだけでは、推進派(修繕委員会)に押し切られてしまいます。まずは客観的な事実を集めます。

  • 「談合問題の資料確保: 建装工業が立ち入り検査を受けたニュース記事や、行政処分等の事実関係を整理します。「法令遵守(コンプライアンス)の観点から、説明責任を果たすべきだ」という正当な理由になります。
  • 「管理規約の確認: 大規模修繕の決議要件や、理事・委員の選任・解任規定、監事の権限を確認してください。
  • 「過去の議事録の閲覧請求: 管理組合には議事録の保管義務があります。前回の工事金額や選定プロセスに不自然な点がなかったか、現在の委員長がどのような発言をしてきたかを確認します。

2. 監事への働きかけ

管理組合の役員の中で、唯一「業務執行を監査する」役割を持っているのが監事です。

  • 「監査」の要請: 監事に対し、「特定業者への偏重や過去の不祥事に対する調査が不十分ではないか」「透明な見積合わせが行われているか」をチェックするよう書面で依頼します。
  • もし監事も委員長と仲が良い場合は難しいですが、職務放棄は区分所有法上の問題になり得るため、プレッシャーになります。

3. 「対案」と「公開質問状」の提出

理事会や修繕委員会に対し、書面(できれば内容証明や、総会で配布されることが確実な形)で公開質問状を送ります。

  • 質問項目の例:
    • 談合問題が報じられた業者をあえて選定する妥当性と、その際のリスクヘッジは検討されたか。
    • 前回と同じコンサル・施工業者にすることで、競争原理(相見積もりによるコストダウン)が働かないデメリットをどう考えているか。
    • 他の候補業者の比較検討プロセスを全居住者に開示できるか。
  • ポイント: 「反対」ではなく「説明を求める」姿勢を貫くことで、他の住民の関心を引きます。

4. 他の区分所有者との連携(仲間作り)

一人で声を上げると「クレーマー」扱いされる恐れがあります。

周知活動: 談合の事実や、癒着によるコスト高のリスクをまとめたチラシをポスティングしたり、近隣の住民と情報交換を行います。「私たちの積立金が、不透明な形で使われようとしている」という共通認識を作ることが重要です。

5. 総会での否決・修正動議

総会が開催された際、以下の行動が取れます。

  • 質問権の行使: 議場にて、公開質問状に対する回答を求め、全参加者の前で矛盾を突きます。
  • 議案の否決: 事前に委任状や議決権行使書を集め、特定業者への発注案を否決に追い込みます。
  • 修正動議: 「業者の選定をやり直すこと」や「第三者の専門家(セカンドオピニオン)を入れること」をその場で提案します。

注意すべきリスク:不適切コンサルの手口

国土交通省も注意喚起していますが、設計コンサルタントが特定の施工業者と裏でつながり、バックマージンを受け取る代わりに、その業者が選ばれるよう仕様書を操作するケースがあります。

相談窓口の活用

個人の力で限界を感じたら、以下の公的な専門機関に相談してください。

  • 住まいるダイヤル(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター): 国土交通大臣指定の相談窓口です。大規模修繕のトラブルについても専門的なアドバイスが受けられます。
  • マンション管理士: 外部のマンション管理士をスポットで雇い、現在の計画をチェックしてもらうのも一つの手です。

最後に: 修繕委員会や理事が「ずっと同じメンバー」という硬直化した体制を打破するには、「透明性の確保」を大義名分に掲げるのが最も効果的です。ご自身の財産を守るため、まずは監事への相談や、志を同じくする居住者探しから始めてみてはいかがでしょうか。

同じ区分所有者が最後の難関

修繕委員会や大規模修繕を取り仕切ろうとする区分所有者が「高圧的な」である場合、正論をぶつけるだけでは「反抗勢力」と見なされ、さらに態度を硬化させたり、村八分のような状態に追い込まれたりするリスクがあります。

こういったケースでは、「個人 vs 委員会」という構図を避け、「客観的なルール・社会的責任 vs 委員会」という構図にすり替えるのが定石です。

1. 「コンプライアンス(法令順守)」を武器にする

高圧的な態度をとる区分所有者は「俺たちが苦労してやってやっている」という自負が強いですが、「法的なリスク」や「資産価値の下落」という言葉には弱いものです。

  • 責任問題」を強調する:「「万が一、談合問題がある業者と契約し、後に問題が再燃した場合、理事会や修繕委員会の善管注意義務違反(過失)を問われる可能性はないか? 私たちは委員の皆さんを信頼しているからこそ、後で皆さんが責任を追及されるようなリスクは避けてほしい」という言い方をします。
  • ポイント:相手を攻撃するのではなく「(形向きは)相手の身を案じる」スタンスを取ります。

2. 「味方」を増やす(数の力)

強硬的な態度は、周囲が沈黙しているからこそ増長します。

  • 孤立を避ける: 同じ不安を感じている住民は必ず他にもいます。まずは親しい住民数人と「A社の談合のニュース、知ってます?」と世間話から始め、不安の種を共有してください。
  • 連名での書面提出: 一人で意見を言うと「あの人はうるさい」で済みますが、5名、10名の連名で「説明会を求める要望書」を出すと、無視できなくなります。

3. 「セカンドオピニオン」の導入を提案する

「今のコンサルを変えろ」と言うと角が立ちますが、「チェック機能を外部に入れる」という提案は正当性があります。

  • マンション管理士のスポット起用: 「これほど大規模な金額を動かすのだから、念のため第三者のマンション管理士に、見積内容が適正か一度だけチェックしてもらいませんか?」と提案します。
  • 自治体の無料相談を利用する: 「区や市のマンション相談窓口で『談合の懸念がある場合は慎重に』とアドバイスを受けた」という外部の権威を引用するのも効果的です。

4. 総会議事録への「記録」を要求する

強硬な人は、密室では強気ですが、「公的な記録」に残ることを嫌がります。

  • 理事会や説明会に出席した際、「本日の私の懸念(業者の不祥事と選定理由の不透明さ)については、必ず議事録に詳細に記載してください」と念押しします。
  • 後で訴訟や紛争になった際、記録があることは彼らにとって大きなプレッシャーになります。

5. 最終手段:区分所有法に基づく「招集請求」

もし理事会が全く耳を貸さず、暴走している場合は、法的な手続きを検討します。

  • 臨時総会の招集請求: 区分所有者の5分の1以上の賛成があれば、特定の議題(例:修繕委員の解任や、業者選定プロセスの見直し)について臨時総会を開くよう請求できます。
    ※これは最終手段ですが、「5分の1集まれば、あなたたちの解任を問う総会を開けますよ」という事実を知っておくだけでも、交渉のカードになります。

強硬的な相手への「話し方」のコツ

「私は反対しているわけではありません。ただ、『談合で調査を受けている業者を選んだ』という事実が中古売却時の重要事項説明などでマイナスに響き、マンション全体の資産価値が下がることを恐れています。全住民が納得できる説明資料を、委員会で作っていただけませんか?」

このように、「あなたの態度の問題ではなく、マンション全体の資産価値(お金)の問題である」という論理にすり替えてみてください。

修繕委員会のトップが長く居座っている場合、そこには「サンクコスト(これまでの苦労)」への執着があります。まずは監事(もし機能していれば)に、「コンプライアンス上の懸念」として書面を1枚入れるところから始めるのが、最も低リスクで効果的な一歩です。

今の段階で、他に相談できそうな住民の方は思い当たりますか?

前述しましたが、国土交通大臣指定の相談窓口として、住まいるダイヤル(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター) https://www.chord.or.jp/ 【03-3556-5147 電話受付 10:00~17:00(土、日、祝休日、年末年始を除く)】があります。また、マンション管理士、弁護士や当団体などをセカンドオピニオンとして相談したり、顧問契約を結ぶなど、感情的ではない対応をすることをお勧めします。

本件に関する詳細やご相談は、当センターのウェブサイト(https://www.mansion-support.jp
またはお電話(06-6630-0153)にて承っております。

一般社団法人マンション適正管理サポートセンター
お問い合わせ先: info@mansion-support.jp
TEL: 06-6630-0153