コラム

大阪・関西万博の工事代金未払い問題に見る「契約文化の違い」とマンション修繕の教訓

10月13日に閉幕を迎えた大阪・関西万博。 建設費の高騰や準備の遅れといった逆風の中で開幕を迎えましたが、来場者からは高い評価を得ており、特に関西圏経済への起爆剤として大きな期待が寄せられているのは確かです。今回取り上げるのは、海外パビリオンの建設工事をめぐる工事代金の未払い」が問題です。

報道によると、複数の施工業者が代金の支払いを受けられず、工期の遅れや資金繰りの悪化に苦しんでいるといいます。
一見すると「建設費の高騰」「元請企業の支払い能力の問題」と思われがちですが、背景には、契約文化の違いという構造的な要因があるのではないか――というのが筆者の見立てです。

1. 仮説:日本的な「精算払い」文化がもたらしたズレ

今回の未払い問題については、現時点で明確な公式見解が示されているわけではありません。
しかし筆者は、日本特有の「精算払い」慣行が、海外企業との契約文化の違いと衝突した可能性があると考えています。あくまで仮説の域を出ませんが、こうした構造的ギャップがトラブルを招いたとすれば、マンションの修繕現場にも通じる教訓があるといえるでしょう。

2. 日本の建設慣行:「精算払い」と追加工事への柔軟さ

日本の建設業界では、工事完了後に実際の数量や内容を精算して金額を確定する「精算払い」の慣行が広く見られます。
現場で予想外の作業が発生しても、最終的に「お互い様」の感覚で調整し、請負代金を増減することが珍しくありません。

こうした慣行は、信頼関係を前提とした柔軟な仕組みとして機能してきましたが、契約上の透明性が低く、トラブル時に根拠を示しにくいという弱点もあります。
とくに発注者と請負者の関係が遠くなるほど、後の精算交渉は複雑化します。

3. 海外では「契約書がすべて」

一方、海外では「契約書に書かれていないことは、原則として認められない」という考え方が一般的です。
契約時点で金額・範囲・支払い条件を厳密に定め、途中で変更がある場合は、正式な追加契約を締結しなければなりません。
「後で精算する」という発想は基本的に通用しません。

今回の万博工事では、海外企業が元請となるケースも多く、日本的な「柔軟対応」が理解されず、精算を前提にした追加工事が支払対象外になった可能性があります。
契約文化の違いが、結果として未払い問題に発展したのではないか――これが筆者の仮説です。

4. 「安値受注」と「精算頼み」は破綻のもと

こうした状況下では、「とりあえず安く受けて、後で精算で取り戻す」という考え方は極めて危険です。
契約上、精算や追加請求の根拠がなければ、相手国の法的ルールのもとでは支払いを請求できないこともあります。
今回の事例は、“安値受注+精算頼み”という日本的慣行の限界を象徴しているのかもしれません。

5. マンション大規模修繕でも起こり得る「精算トラブル」

この問題は、スケールは違っても、マンションの大規模修繕でも起こり得ます。
当初の見積に含まれていなかった項目が後から発生し、「あとで精算します」と進めた結果、工事完了後に請求トラブルになることがあります。

例えば――

  • どこまでが追加工事に該当するのか
  • 単価や数量の根拠はどこにあるのか
  • 誰が承認したのか

これらが不明確なままでは、管理組合として納得のいく説明を受けることができません。
特に修繕積立金を使う場合、精算の不透明さは住民間の不信感につながります。

6. 管理組合としての対応ポイント

今回の万博の件から、管理組合が学べる点は多くあります。
「信頼関係に頼る」だけではなく、「契約の透明性を高める」ことが何より重要です。

1.契約内容を明確にする

 工事範囲・数量・支払い条件・変更手続きのルールを文書化しましょう。
 「精算払い」とする場合は、その方法と根拠を具体的に書き込みます。

2.追加工事は必ず書面で承認

 理事会・監理者が内容と金額を確認し、承認記録を残します。

3.出来高払いを検討する

 進捗に応じた段階支払により、資金の流れを明確化します。

4.監理者・第三者チェックを活用する

 数量・仕様・支払金額を専門家が客観的に確認する体制を整えましょう。

おわりに:信頼だけでは通用しない時代に

日本では「お互いの信頼で成り立つ取引」(※節季払い等)が長く美徳とされてきました。
また、現在でも、協力業者の名の下に、下請け、孫請け、ひ孫受け、○○次下請けと呼ばれる構造が残っています。
しかし、社会が国際化し、多様な契約主体が関わる時代では、それだけでは十分ではありません。
今回の万博の未払い問題(筆者仮説を含む)は、その象徴的な出来事といえるでしょう。

マンションの修繕でも、“信頼”に“契約の明確さ”を加えることが、安心して工事を進めるための第一歩です。
不透明な精算やあいまいな契約条件を避け、誰もが納得できるプロセスを築くことが、管理組合(工事請負契約での最初の発注者)に求められています。

節季払い:江戸時代の商取引において、盆と暮(年二回)にまとめて支払う掛け売り。
     京都の商人(諸説あり)から広まったとされ、年四回・年五回もあった。

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